吉祥寺は、「住みたい街」ではなくなってしまったのでしょうか?
吉祥寺に住んでいることを友達に話すと、真っ先に「住みたい街ランキング上位だもんね」といわれます。
吉祥寺にある居酒屋の店員さんに「今年も住みたい街ランキング1位だったね」といわれたこともあります。
これほどまでに、内外から住みたい街ランキングの印象がついているのは吉祥寺くらいでしょう。
ではなぜ、「吉祥寺=住みたい街ランキング」のイメージが根付いたのでしょうか。
住みたい街ランキングの歴史をさかのぼれば、吉祥寺と住みたい街ランキングが結びついたきっかけが自ずと見えてきます。
この記事では、住みたい街ランキングと吉祥寺をめぐる歴史、住みたい街ランキングにおける吉祥寺の順位の推移をみていくことで、住みたい街ランキングや吉祥寺に訪れている変化、今後の展開について分析していきます。
吉祥寺が住みたい街ランキングで上位の常連なのはなぜ?
いまや吉祥寺には、住みたい街ランキングの上位常連のイメージが定着しています。
吉祥寺のどういった部分が、住みたい街ランキングの上位を維持させているのでしょう。
吉祥寺が住みたい街といわれる大きな要因として、「都市と自然を兼ね備えていること」「カルチャーの渦巻く街であること」「レトロさとモダンさが共存していること」の3つが挙げられるでしょう。
1つ目の魅力は「都市と自然を兼ね備えていること」です。
吉祥寺駅には京王井の頭線と中央線、総武線が通っていて、渋谷や新宿に行くのに20分もかかりません。
サンロード商店街、ダイヤ街といった商店街に加え、ヨドバシカメラ、PARCO、東急百貨店といった大型店舗もあり、アクセスの良さ、便利さという住みやすい都市の特徴を押さえています。
一方で、吉祥寺駅の公園口を出て少し歩くと、そこには井の頭公園という大自然が広がっています。
都市としての強みを持ちながら、駅から徒歩5分圏内で大自然に触れることができる街はあまり聞いたことがありません。
「利便性を重視したいけど、都会の喧騒にずっと揉まれるのも嫌だ」という方にとって、吉祥寺の形は魅力的に響くのではないでしょうか。
2つ目の魅力は、「カルチャーの渦巻く街であること」です。
吉祥寺は、サブカルチャーと密接なつながりのある街です。
1960年代から現在まで音楽シーンと深く関わり、スタジオジブリをはじめとしたアニメーション制作会社が点在し、漫画家も多く住み、あまたの文豪にとってゆかりの地でもある吉祥寺。
音楽、アニメ、漫画、文学、喫茶店と、数多くのカルチャーが混ざりあい、独自の形へと発展を遂げています。
この特色の面白さも、クリエイターやエンターテイナーをはじめとした多くの人に愛され、支持を得ている理由だといえるでしょう。
3つ目は、「レトロさとモダンさが共存していること」です。
吉祥寺駅周辺はお店の入れ替わりが激しく、最先端のお店が次々に誕生します。
挽肉と米がSNSを通して若者の間で話題になったように、流行を作りだすことも少なくありません。
その対極にあるのが、ダイヤ街やハモニカ横丁に古くから残るお店や街並みです。
流行のお店で遊びつかれたら、古き良きぬくもりのある街並みがいつでも迎えてくれる。
モダンさとレトロさが共存している街であることも、多くの層に受け入れられている理由です。
住みたい街ランキングと吉祥寺の歴史
”吉祥寺=住みたい街ランキング”というイメージのはじまりとは、どのようなものだったのでしょうか。
まずは、住みたい街ランキングと吉祥寺をめぐる歴史について振り返ってみましょう。
「吉祥寺=住みたい街ランキング」を最初に印象づけたのは『東京ウォーカー』
住みたい街として吉祥寺が注目されるきっかけになったのは、KADOKAWAが発行していた雑誌『東京ウォーカー』でしょう。
1998年からスタートした「住みたい街ランキング」は、雑誌の読者を対象としたアンケート調査によって集計されていました。
はじまった当初から吉祥寺は上位をキープし、2005年から企画が終了する2015年まで、10年連続で1位を獲得し続けるという離れ業をやってのけました。
住みたい街ランキングの元祖ともいわれる企画でこれだけの結果を残していれば、人々のなかに「吉祥寺=住みたい街ランキング」の印象が根付いたことは容易に想像ができます。
その他の住みたい街ランキングでも上位の常連へ
吉祥寺が上位にランクインした住みたい街ランキングは『東京ウォーカー』のものだけではありません。
長谷工アーベストの「住みたい街(駅)ランキング(首都圏総合・都県別)」では、2004年から2019年まで吉祥寺が首位を獲得しており、SUUMOの「住みたい街ランキング」でも、2012年から2015年、2017年に1位を獲得しています。
吉祥寺は住みたい街ランキング上位の常連として、広く知られるようになっていくのです。
住みたい街ランキングに起こっている変化
それまでの住みたい街ランキングに、最初の変化が訪れたのは2016年です。
なにかとメディアで話題になることが多いSUUMOの「住みたい街ランキング 2016」で、吉祥寺が首位から陥落しました。
2017年に再び1位になりますが、2018年以降は横浜が1位に。
吉祥寺は毎年3位をキープしています。
長谷工アーベストの「住みたい街(駅)ランキング(首都圏総合・都県別)」でも、2020年に吉祥寺は首位陥落。
SUUMOのランキング同様、変わって横浜が1位になっています。
1位が盤石かに思われた吉祥寺が横浜に取って変わられた結果からも、人々の「住みたい街」に少しずつ変化が起こっていることが分かります。
2020年、2021年の住みたい街ランキングを見てみましょう。
長谷工アーベストの「住みたい街(駅)ランキング(首都圏総合・都県別)」で注目すべきは、吉祥寺から首位を奪った1位の横浜、2019年に13位から3位までランクアップしていた3位の大宮、2019年の9位から順位を上げた同じく3位の浦和です。
これらの街はすべて、「都心に行きやすい東京郊外の街」です。
これまで住みたい街ランキングの上位にランクインしていた街は都心が多く、存分に遊びや買い物に向いた街が多い傾向にありました。
それが近年では、東京郊外の街や都内にある街のなかでも自然の多い街が上位にランクインしています。
このことから、人々の住みたい街が「都心の便利でなんでも揃っている街」から「都心に行きやすくて自然が多い郊外の住みやすい街」に変化していると予測することができます。
SUUMOのランキングでも、2020年と2021年ともに1位は横浜が獲得。
都心の街が順位を下げるか同順位にとどまっている一方、浦和やさいたま新都心、桜木町、つくば、浦安といった東京郊外の駅が軒並み最高順位を更新しています。
特定の住みたい街ランキングに変化が起きているのではなく、人々が住みたい街を選ぶ基準自体に変化が起きているのです。
住みたい街ランキングにおける吉祥寺の位置付け
人々の住みたい街が変化しているなかで、吉祥寺はどのような存在になっていくのでしょうか?
それを考えるうえで参考にできるのは、LIFULL HOME’Sの「住みたい街ランキング〈首都圏版〉」、株式会社FJネクストの「単身者が選んだ『住みたい街ランキング2020』」という2つの住みたい街ランキングの結果です。
LIFULL HOME’S「住みたい街ランキング〈首都圏版〉」から見る吉祥寺
LIFULL HOME’Sの「住みたい街ランキング〈首都圏版〉」は「買って住みたい街」と「借りて住みたい街」に分けて集計された住みたい街ランキングです。
このランキングにおいて吉祥寺は、「買って住みたい」では2015年と2016年に1位、「借りて住みたい」では2015年に3位、2016年に1位を獲得したものの、2017年以降は「買って住みたい」「借りて住みたい」ともに20位以下です。
この急激な順位の理由として考えられるのは、「集計方法の変更」です。
LIFULL HOME’Sの「住みたい街ランキング〈首都圏版〉」は2016年から2017年の間で、「インターネット調査」から「実際の検索や問い合わせ件数の集計」へと集計方法を変更しています。
それにより、「憧れの色が強いランキング」から「実際に住むことを検討している現実的なランキング」に変化したといえるでしょう。
そのなかで、吉祥寺は2017年から大幅に順位を落としているのです。
FJネクスト「単身者が選んだ『住みたい街ランキング』」から見る吉祥寺
FJネクストの「単身者が選んだ『住みたい街ランキング』」は、「今、住みたい街」と「単身者が住みやすい街」に分けて集計された住みたい街ランキングです。
一番の特徴は、調査対象が「首都圏に住む20代・30代の単身生活者」だということでしょう。
他の住みたい街ランキングの調査対象と比べて、単身者かつ年齢が若い方が調査対象に設定されています。
住みたい街ランキングに該当する「今、住みたい街」のランキングにおいて吉祥寺は、調査を開始した2018年から2021年まで3年連続で1位を獲得。
選んだ人の男女比では女性が多く、選んだ理由では「おしゃれ」というキーワー ドが目立っていたとのことです。
憧れの街「吉祥寺」
2つの住みたい街ランキングから読み取れるのは、吉祥寺は人々にとって「憧れの街」だということです。
若者が夢に見るような、「もしも好きな場所に住めるとしたら?」という質問の答えとして出てくるような、そんな街。
家賃、職場へのアクセス、パートナーの都合。
現実的な事情を考えると住む場所を自由に決めることはできません。
現実で考慮しなければならない事情をすべて取り払ったときに住みたいと思える、おしゃれな憧れの街、それが吉祥寺なのです。
まとめ
住みたい街ランキングがはじまって以降、吉祥寺は多くのランキングで上位を維持し続けています。
「みんなが住みたい街」の代名詞であったその街は、人々の住みたい街が「便利な郊外」へと移ることによって、住みたい街としてのかつての勢いを失っているようにも見えるかもしれません。
ほんとうにそうでしょうか?
確かにデータを見れば、「誰もが現実的に住みたい街」ではなくなってきているということもできるでしょう。
ただしそれは、「住みたい街としての新しい立ち位置」を獲得した結果でもあるのです。
その根拠に、吉祥寺は依然として20代30代の単身者からは絶大な支持を集め、住んでみたい街としても上位に位置しています。
そこには、若者が集い、多くの人が遊びに訪れる街として、支持を集める吉祥寺の姿があります。
周囲の見方が変わっても、吉祥寺という街の根本の部分は変わりません。
レトロとモダンが共存する街並み、独自のカルチャー、自然。
かつて誰もが愛した街の魅力はそのままに、これからも多くの人に愛されながら発展を遂げていくことでしょう。
去るものは追わず、来るものは決して拒まない。
そのあたたかみが、吉祥寺という街の本当の魅力なのです。
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