「ふつうのラーメンが食べたい」。
作りこんだグルメラーメンでなく、素朴なぬくもりのあるラーメン。
仕事をさぼった昼、陽気な気分の日曜日、何でもない夜ごはん。どんな日のごはんも受け止めてくれたさくらい。
いらっしゃい!とだみ声で迎えてくれるおっちゃん、70年代の懐かしい洋楽が流れる店内。
手づくり感あふれるメニューや色あせた料理サンプル、座布団敷の椅子。
夏にはクーラーの吹き出しに付けられたリボンが冷風にふわーと浮いてたりする、昭和感満載のさくらい。
常連さんとおっちゃんの世間話がお店いっぱいに聞こえるのだってさくらいならでは。
今日は持ってないのに「50円券ある?持ってるね」と50円引きしてくれる。あのピンクの50円券、もう使えなくなっちゃうのか。
吉祥寺は華やかなお店も多いけど、さくらいにはいつだって吉祥寺の静かな日常があった。
ご近所さんたちがそれぞれの時間を過ごしている、平和な雰囲気も大好きだった。
ある日突然と「1/31に閉めます」という噂を聞いた時、ただただ驚きとさみしさでいっぱいだった。
あと何回も食べられないとさくらいへ行くと廊下の椅子いっぱいに、いろんなお客さんたちが座って待っていた。
熟年の夫婦のように息が合ったおっちゃんふたりが、どんどんラーメンや餃子を仕上げて、みんな静かにもくもくとラーメンを食べる。
きっとみんな、おんなじ。思い思いにこの味とこの場のありがたさをあらためてしみじみと感じているに違いない。
そんなことを思うと、なんだかつーんと泣けてきそうになって、ずずずと麺をすする。
みんなお店を出る時に、いつもより大きな声で「ごちそうさま」と言って店を出る。
また、じーんとしてしまう。
さくらいさん、ありがとう。いつも変わらずそこにあり続けてくれてありがとう。もっとたくさん食べたかったけど、ありがとう。