吉祥寺を支えてきたあの人、あの店主 Vol.8

行きつけの寿司屋を持つのが夢だった。

30代に突入し、そこそこ稼げるようになってその夢を叶えた。

私が週1で通うほど心酔しているのがヨドバシ裏の「千代谷」だ。

昭和54年創業、吉祥寺屈指の老舗寿司屋である。

たしかに敷居は高いが、気取った感じは一切なく、気さくな夫婦が切り盛りする。

この取材をお願いした際も「東京の親って書いていいからね」と快く引き受けてくれたのが、大将の千代谷大介さん。

青森県出身で、集団就職で15歳の時に上京した。

「豊洲の鉄工所に就職して、そこの社長になるつもりでがむしゃらに働いたけれど、中卒だったから出世の見込みが薄いという現実を知って、4年で会社を辞めた。その後、寿司屋の世界へ。きっかけは、鉄工所の寮から銭湯に行く途中に寿司屋があって、よく外から覗いていたんだけど、お客と職人が楽しそうに酒を酌み交わす光景が羨ましくてたまらなかったから。都内の名店で修業を積んで、店長を勤めた後、32歳で独立しました」

吉祥寺で40年以上、板場に立ち続け、多くのドラマがあった。古くからの上客が親子四代で長く通ってくれることもあれば、会社が倒産してツケを払ってもらえず泣き寝入りすることも。

さらにバブルの波に乗り、老後を悠々自適に暮らすだけのお金を稼いだにもかかわらず株で大失敗。

騙されることも多く、紆余曲折あった。

「本当にいろいろあったね~。でも商売は信頼関係が全て。コロナ禍で休業を強いられ、再開した時に常連客がたくさん来てくれた時は本当に嬉しかった。たしかに以前より客足はぐんと減ったけれど、形態を変えることは絶対にしない。昔、あるお客さんに『長く続けていたら客が減ることもあるだろうけど、でも絶対に質は落としちゃダメ』と助言されたことがあって、それをずっと守っている。大切な常連客もたくさんいるしね。今後もこれまでのスタイルを貫き、人との繋がりを大切にして、細々とやっていきたい。寿司屋は労働時間が長く、体力勝負だから、毎日サウナに通って健康にも気をつけているけれど、自分の体が壊れるのと、このビルの解体と、どちらが先になるか…。でも続けられるうちは、女房と二人三脚で店を続けていきたいね」

左から小肌、トロ、煮アナゴ。豊洲市場で目利きして仕入れるネタはどれも質が高い。

掃除が行き届いた、清潔感ある店内。カウンター席から職人技を間近で眺められる。

住所武蔵野市吉祥寺本町1-23-3
電話番号0422-21-8389
営業時間18:00~翌2:00
休業日日曜・祝日
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