吉祥寺には今を時めく旬のコンテンツやSNS映えするグルメなどが集まり、最先端の情報の発信地としても人気が高くなっています。
しかし、吉祥寺のもう1つの顔として、商店街や老舗の小規模商店、ハモニカ横丁など、昭和の空気を今に残す東京都下の生活圏としての顔があることはご存知の通りでしょう。
中でも、きれいに整備された駅前の風景からは想像もできないような、素朴な街の小さな「銭湯」が吉祥寺にまだ残っているという事実は、知られているようで意外と知られていません。
その数はわずかに2軒、吉祥寺本町2丁目の「弁天湯」と、本町1丁目の「よろづ湯」を残すのみです。
しかし、地元民を中心に今でも夕方以降は混雑し、人々の疲れを癒し続けています。
今回は、吉祥寺に今も昭和の雰囲気を残す銭湯「よろづ湯」に実際に入りに行ったレポートをお届けします。
立地はヨドバシカメラ吉祥寺の裏
吉祥寺近辺に住んで15年になる筆者ですが、吉祥寺に銭湯があることを長いこと知りませんでした。
自分が東京に出てきたときに下宿していたアパートも普通にバストイレ付きでしたので、銭湯に行くという考えがそもそもなかったというのも大きいです。
現代では一人暮らしであろうと家族と暮らしていようと、家庭の中にお風呂があるのが一般的となり、銭湯の需要は急激に減少していることもあって、特に都市部を中心に銭湯の数は年々減っています。
実際に東京の普通公衆浴場数、つまり銭湯の数は、1996年~2016年の20年間で、1996年対比39%にまで減少(厚生労働省「衛生行政報告例」)しました。
そうした39%の中に生き残っている貴重な銭湯が吉祥寺には2軒あり、そのうちの1軒が「よろづ湯」です。
立地は吉祥寺本町の東側、吉祥寺の中でも歓楽街にあたる区域に位置し、ざっくりといえば吉祥寺都市計画の設計でいうところの東の端に位置する「ヨドバシカメラマルチメディア吉祥寺」の裏手にあたります。
アクセスとしては、まず吉祥寺駅北口を出て横断歩道を東側に渡り、吉祥寺大通りの脇に口を開ける「本町稲荷通り」に入りましょう。
周りは居酒屋や夜のお店が集まり少しいかがわしい雰囲気ではありますが、まっすぐ北側に1分程度歩くと、突然そこだけタイムスリップしたかのように、昭和感漂う古めかしい建物が現れます。
入り口に「ゆ」の文字の暖簾がかかり、三角屋根で、入り口横に自動販売機とコインランドリーがある感じも、なんとも昭和的な情趣を漂わせています。
ここが、昭和の時代から今に至るまで、50年以上営業を続ける銭湯「よろづ湯」(1965年(昭和40年)2月創業)です。
店名 | よろづ湯 |
住所 | 〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目18−9 |
営業時間 | 16:00-23:00 土曜定休(当面の間、短縮営業中。通常は24:30まで営業) |
「よろづ湯」の客層は若者中心
現代でいうところの「銭湯」の形式は、近世は江戸に始まり、明治・大正・昭和と日本が都市化・近代化するにつれて、特に都市に暮らす庶民の間で銭湯文化が隆盛を極めました。
かつて「お風呂」というのは今でいうサウナのようなもので、近世以前は薬草を焚いてその蒸気を浴びる「蒸し風呂」を指すのが一般的でした。
それが徐々に湯に浸かる入浴スタイルが取り入れられはじめ、明治10年頃には現代でいう銭湯のように広く開放的な入浴場が確立しました。
いわゆる「番台」を設け男女別々の湯に仕切りを設けた、今では一般的な銭湯の設計もまた、その時代に確立したといわれています。
よろづ湯もまた、今もなお残る銭湯の多くと同じように、「番台」のスタイルで営業しています。
男女別れた下駄箱は、今では和風居酒屋くらいでしか見られない昔ながらの木製の「風呂屋錠」でカギをかけるシステムになっており、下駄箱から通じる扉を開けるとすぐに番台さんの目の前に出て、番台さんが「いらっしゃい」と声をかけてくれる感じもまた昭和。
早速、大人入浴料470円(小学生180円)と、その場に売っていた「お風呂セット」140円、合計610円を支払うと、その場がすぐ広々とした脱衣場になっているのもまた昔ながらのスタイル。
この「よろづ湯」、吉祥寺という立地もあってか昔からメインの客層は若者で、自分が入浴後、18時前くらいになると一見すると仕事終わりというより学校や部活終わりに見える20代前半くらいの若者グループが複数、どやどやと入ってきて雰囲気もにぎやかになってきました。
タイル張りの立派な銭湯絵
さて、筆者が脱衣所に入った時は早い時間だったからかまだ誰も客がおらず、完全に貸し切り状態でした。
銭湯での立ち居振る舞いをすっかり忘れていたこともあっておっかなびっくりではありますが準備を開始。
広々とした脱衣所で服を脱ぎ、服や荷物をロッカーに詰めてカギをかけ、銭湯によくあるゴム紐のついたカギを二の腕に巻いていざ大浴場へ。
カギにはナンバープレートがありますが、数字がほとんどかすれて消えてしまっているので、自分のロッカーの番号はしっかり覚えておきましょう。
スライド式の戸を開けると目の前に広がるのは「よろづ湯」名物、著名な銭湯絵師・中島盛夫氏の手掛けた壮大なペンキの銭湯絵。
かつては多くの銭湯絵が富士山を描いたもので(特に男湯の場合)、「よろづ湯」の男湯の銭湯絵も3年くらい前までは富士山が描かれていました。
しかし、現在は名絵師の描く迫力の富士山は女湯に移され、男湯側は水面にウインドサーフィンが流れ、岩礁に水しぶきが跳ねる別の景観に描き替えられています。
男湯にはペンキ絵の下に昔ながらのタイル絵もあり、そこでちゃんと富士山の姿が拝めるので、二つの富士山が重複していたのを正しく直したのでしょう。
伝統の富士の姿を見れなかったのは残念ではありますが、新しい銭湯絵もさすがの名絵師の手が光る鮮やかかつ壮大な景観で、思わず湯に浸かる前から気持ちの昂る思いでした。
男湯は右側の蛇口からお湯が出やすい
まずは備え付けの銭湯おなじみ「ケロリン桶」と風呂椅子を取り、洗面所で体を洗いましょう。いきなり風呂に浸かるのはマナー違反です。
何よりも「はしっこ」が好きな自分は左の窓側はしっこの洗面所を利用したのですが…しかし…
「なんか…あれ?お湯が出ない?」
と思いつつぬるま湯なのか水なのかわからない絶妙な温度の「水」を桶にため体を流すと、蒸し暑い雨の日だったからかそれなりに爽快でした。
あまり気にせずに「お風呂セット」のボディーソープとリンスインシャンプーで体と頭を洗っていきます。
ちなみに今時のホテルの大浴場にあるようなシャワーは昭和の銭湯にはないので注意。
更に付け加えると、ホテルとは違い、タオルやシャンプー、ボディーソープ、石鹸の類などは備え付けられてはいません。各自、必要なものを持参しましょう。
事前の準備がない場合でも、筆者のように、「お風呂セット」を購入すれば入浴できます。
*アメニティーについて*
繰り返しになりますが、ホテルなどとは違い、タオルやシャンプー、ボディーソープ、石鹸の類などは備え付けられてはいません。各自、必要なものを持参しましょう。また、よろづ湯では、ドライヤーやマッサージチェアなども有料で利用することができます。
髪を洗ったあとはお風呂セットについているタオルで髪を拭きます。
ハンドタオルなので、髪の長い筆者としては少々物足りないですが、手ぶらで来てしまったため我慢して水を絞りながら頑張って水気を切るなどしました。
お湯は左側に浅めの浴槽があり、左端にジャグジーが2つ付いており、右側には全身どっぷり浸かれるような底の深い浴槽で、薬湯など特段変わったお湯はない様子。
早速ジャグジーのほうへ入り一番風呂(おそらく)に浸かってみると、まぁそれまでの雨で鬱々した気持ちやら日々の精神的な疲れやらが丸ごと吹っ飛んでいくかのような気持ちよさで、温度も42~43度ほどという心地よい温度。湯治を求める老人が少ないので、若者向けにあまり温度を熱くしすぎないようにしているそうです。
思わず「ふぃ~」というどこから出てるのかわからない謎の声を発してしまうレベル。
そこに番台のおじいちゃんがやってきて、一言。
「そっちの洗面所は冷たいでしょ~?実はこっちから湯が出始めるんだよね」
どうやら左側(窓側)端っこの蛇口はお湯が非常に出にくいらしい。女湯との仕切り壁側の洗面所を指さして、ぐるりと指を動かしながら説明するおじいちゃん。
なんと、そんな驚きの事実があったとは…体を洗うときはなるべく右側寄りの蛇口を使いましょう。
ちなみに、女湯との仕切り壁にはこれまたタイル絵で、なぜかブドウ柄が描かれていました、謎。
「よろづ湯」おすすめは18時前・20時以降
さて、銭湯が今でも入れるのはいいとして、やはり裸で同じ場所を利用するということもあって、このご時世には混雑具合が気になる人も多いでしょう。
筆者は比較的早めの時間にお邪魔したのですが、もし可能であれば18時前に訪れるのが最も混雑が少なく済みますので、混雑を避けたい方には早めの入浴をおすすめします。
18時台・19時台がやはりコアタイムになってくるので、20時~21時以降に入りに行くと、比較的客入りが少ないかもしれません。
見た感じ、男湯は18時過ぎにどっと若者が入ってきた印象がありました。
ただし、女湯の方は16時台からにぎやかな声が聞こえていましたので、女湯は早い時間からそれなりにお客さんが入っているかもしれません。
ちなみに「よろづ湯」の脱衣所の設備(男湯)は、有料のドライヤーが1つ(1回20円で5分くらい使える)と、体重計・マッサージチェア(1回20円)・手洗い場・洗面所・トイレがあるほか、有料で色々商品が売ってありました。
カラータオルや筆者の買ったお風呂セット(ボディーソープ・リンスインシャンプー・ハンドタオル)や石鹸、飲み物(カフェラテやフルーツ牛乳・ポカリスエット・エネルゲンなど)といった商品が所狭しと並んでいました。
お風呂セットが売っているので手ぶらでも入浴できますが、お風呂セットのタオルは小さいので、特に髪が長い人は、大きめのバスタオルくらいは持ってきておいたほうがいいかもしれません。
ハンドタオル1つではなかなか水気を拭きとるのに苦労しました。
吉祥寺で昭和の銭湯「よろづ湯」を堪能せよ!
以上、吉祥寺の「よろづ湯」のアクセスや混雑具合などの情報も交えつつ、実際に入ってみたレポートをお送りしました。
吉祥寺で50年以上、昭和の時代から変わらない素朴なスタイルでひっそりと営業を続ける「よろづ湯」。
その古き良き雰囲気と、あくまでもプレーンな番台スタイルを貫く姿勢、実際に入ってみてその居心地の良さに驚きました。
自宅に風呂やシャワーがあって当たり前の今の時代、「あまり銭湯には立ち寄らない」という人も多いかもしれませんが、吉祥寺の街歩きに疲れたら、早い時間からひとっ風呂浴びるのもいいかもしれませんよ。