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私は吉祥寺に住み始めて13年になりますが、今回ご紹介するムーバスが一番使っている公共機関と言っても過言ではありません。
重い買い物袋を持って移動したり、子どもを抱っこして荷物を持つのは思ったより大変なことです。そんな中、100円で利用できるムーバスのおかげで私の生活はぐっと楽になりました。
吉祥寺に住む人たちにとっても、通勤や通学で利用する方も多く、生活の一部にあるムーバス。
ムーバスは、運行を開始から25週年(令和2年11月26日)を迎えました。
そのムーバスは、どのように出来上がり、運用を開始したのか、その歴史を紐解いていきます。
あるお年寄りから寄せられた1通の手紙から始まった
平成7年11月26日、運行開始の式典が、吉祥寺北口商店街の入口にある停留所で行われました。
きっかけはお年寄りから寄せられた1通の手紙から。
当時の市長がムーバスを着想したのは、市内在住の高齢女性からの手紙がきっかけでした。
「吉祥寺駅から1キロほど離れたところに住んでいましたが、足が悪くなり、吉祥寺まで出るバス停までも行けないので困っている」といった内容の手紙だったそうです。
市長は市内で生まれ育ち、市内の何カ所かを転居した末に市役所で勤めていたので武蔵野市内を知り尽くしていました。
その市長であっても、このお年寄りの立場に立って考えてみると、市内のあちこちに、交通の不便なところがあると思いました。
同じことを思っている人が、もっといるに違いないと感じたそうです。
その頃、住宅や道路、公共施設などの整備を進める市政アンケートでは「交通整備」への要望が多く、高齢者からは「街に出たいがバス停が遠い」「バスの本数が少ない」「自転車に乗るのは怖い」といった声が多く寄せられていました。
そういった当時の実状から、市長は高齢者だけではなく、幼児の手を引く主婦など「市民の誰もが気軽に利用できるコミュニティバス」を走らせる決意をしました。
コンセプトはお年寄りが安心して乗れるバス
市長が考えたコミュニティバスのコンセプトは「お年寄りが安心して乗れるバスをつくること」でした。
住宅内を走ることを考えると、小型である必要がありました。
当時、小型の電気バスがまず候補にあがりましたが、この開発には膨大な時間と費用がかかるため断念しました。
その頃、ディーゼルエンジンの新しい小型バスが開発中であることを知り、これが最終的に採用となりました。
このお年寄りの負担のないバスづくりで、最も気を使ったのがバスの乗り降りでした。
乗降時間の短縮のために車両の前後にドアを設置し、乗り降りしやすくするための電動式補助ステップをつけました。
つり革の代わりにあちこちに細めの握り棒が立てられました。
背の低い高齢者には、つり革を長くするとふらふらして危ないためです。
また、シートにはすべて肘掛けや、グリップが取り付けられました。
ムーバスが走るための多様な手続き
バスを作るのと平行して、関東バスや運輸省、警視庁と話し合いを重ねて、ルートを確定しました。
そして、新しい路線とその路線としての免許を受けるなど、ムーバスを走らせるための手続きは、交通対策課の人たちによって、進められて行きました。
バス停の設置や住民説明会や路線の免許申請、習熟運転、デモ走行を経て、いよいよムーバスの運行開始の日を迎えたのでした。
100円で乗れるムーバスがいよいよ走り始めた
平成7年11月26日、運行開始の式典が、吉祥寺北口商店街の入口にある停留所で行われました。
街の人たちの歓迎ムードの中、いよいよ発進したムーバスは、次の停留所にもお客さんが待っていて、初運行からもう乗り切れないというほどのお客さんに迎えられたのでした。
100円という運賃設定に特に理由はなく、「バスの乗り降りで小銭を用意するのがうっとうしい」「100円ならちょっと乗ってみようという気になる」という市長の提案がそのまま、バスの運行料金に反映されました。
機能性やデザインで3つの賞を受賞
ムーバスの機能、デザインは表彰されるほどです。
第17回 国際交通安全学会賞
受賞部門 業績部門
受賞日 平成8年4月19日
受賞理由 <市民モビリティ向上のための総合交通施策>の業績
第9回 CSデザイン賞
受賞部門 輸送機器部門金賞
受賞日 平成8年7月4日
受賞内容 ムーバスのボディーデザインに対して
第2回 日本計画行政学会計画賞
受賞 優秀賞
受賞日 平成8年10月4日
受賞計画名 武蔵野市ムーバス(コミュ二ティバス)運行計画
ムーバスの名前の由来
ムーバスの愛称は、市民からの公募で決まりました。
武蔵野市の「ム」、英語で動くことを意味する「ムーブ」と私たちをという意味の「アス」を、バスと語呂を合わせて作られました。
ムーブには他には「行動を起こす」とか「感動させる」と言った意味も含まれます。
ムーバスは、市民を、街に誘い出してくれるバスであってほしい、という開発者の願いもこめられています。
ムーバスに乗ると自然な会話が生まれる
ムーバスの小さな車内には、お年寄りの姿も子ども連れの夫婦も、若者もありとあらゆる世代の人が乗ってきます。
どの年代の方も、まんべんなく乗っている印象があります。
また、中央線の電車内や、幹線道路を走るバスのような疎外感はなく、いろんな人が席を譲りあっている光景を目にします。
車体が小さいが故に座席数が少ないため、席を譲り合う姿が日常的になっているように思います。
このような光景は普段、電車やバスに乗っていてもなかなか見られません。
子どもを乗せていると、よく話しかけられました。
まだ子どもが0歳児の、家に子どもと2人の時間が多かった頃などムーバスに乗ると少し気晴らしになったことも思い出されます。
窓が大きくて、陽がさせば暖かで、景色も良く見えます。
子どもも街の様子が良く見えて楽しいようです。
子どもが小さいうちにムーバスにたくさん乗せたいと思っています。
なぜなら、市内の人がなんとなく席を譲ったり譲られたり、穏やかに話す様子を見たりして、社会の関係が希薄になる中こういった場所で、暖かいつながりを学ぶ場所になるといいなと思っているからです。
おわりに
街を走るムーバスの姿は、今日もいつもどおり街が動いており、仲間が頑張っているなと、無意識に感じられるような存在であります。
市民の1通の手紙から着想され、運行を開始し、現在25周年を迎えるに至ったムーバスの運行は吉祥寺に住み始めて13年になる私にも、切っても切れない貴重な存在です。
今後も市民の暮らしを支え、その可愛らしいフォルムとデザインで、私たちの暮らしに活気を与えてくれるでしょう。
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