吉祥寺の「吉祥寺美術館」で芸術に触れよう!|夜もやっていて気軽に行けるアートスポット

東京は文化の中心地であり最先端な情報の発信地でもあります。

その為、各地に多数の美術館があります。

しかしその多くが17時までの営業で、普通に仕事をしているとなかなか行く機会がありませんし、行くとしても週末になってしまいますから、特に都心の人気美術館では行列や混雑は避けられません。

 

できれば人の少ない平日、それも夜に美術館に行けたら嬉しいですよね。

「美術に静かに向き合いたい」とふと思った時、仕事帰りでも芸術に触れることができる場所が実は身近な吉祥寺にあるとしたら、行きたくなりませんか?

今回は、仕事帰りの時間にも行ける「吉祥寺美術館」に、まさに仕事帰りの時間を狙って行ってきました。

 

目次

「吉祥寺美術館」は中心エリア元町通り沿い「コピス吉祥寺」内にある

実は「吉祥寺に美術館がある」ということを知ったのは、この吉祥寺ってこんな街で記事を書くようになってからでした。

これは、大学時代、国分寺にある大学の美術科に通い美術史を専攻し、学芸員の資格もとっている自分としては思わぬ盲点というべき事実でした。

美術館は基本的に遠くにあるものと思い込んでおり、博物館実習で訪れた美術館は世田谷美術館や横浜マリタイムミュージアムなどでしたので、まさかこんな近くに美術館があるとは思わなかったのです。

 

吉祥寺美術館は正式名称を「武蔵野市立吉祥寺美術館」といい、名前の通り公立の美術館でありながら、吉祥寺の中でも中心エリアに位置する元町通りに面しており、吉祥寺内外から訪れる人の多い商業施設「コピス吉祥寺」A館7階という、あまり美術館があるイメージのない場所にあります。

吉祥寺駅からは、北口を出て吉祥寺サンロード商店街に入り、松屋が右手に見えたら左に延びている広い通りを左折すればすぐに元町通りに入ることができますが、吉祥寺に慣れていればサンロード商店街の入り口には入らず、左に延びている「ダイヤ街」から入って、吉祥寺名物「さとう」の丸メンチカツで小腹を満たしてから向かうのもいいでしょう。

吉祥寺美術館方面の入り口はコピス吉祥寺の公園通り側、オープンデッキの横辺りにひっそりと口を開けていて、その主張も少し控えめで気をつけないと美術館があるとはわからないかもしれません。

それゆえかコピス吉祥寺の共通の入り口であるにもかかわらず、人通りはまばらでした。

 

「吉祥寺美術館」の開館時間は19時半まで!仕事帰りにも間に合う稀有な美術館

吉祥寺美術館方面の入り口を入ると程なくしてエレベーターが見えてきます。

あまり時間がかからずにエレベーターが来て、7階のボタンを押して登っていきましたが、平日とはいえ街に人があふれるはずの夕方以降にしては人が少なく、誰にも会わずに吉祥寺美術館まで到着できました。

 

エレベーターを降りるとすぐに美術館の入り口・受付となっていて、受付へ向かうルートはわかりやすく案内されており、自動体温測定器も完備、受付はシート越しで消毒・検温実施などさすが公立美術館、感染対策も完璧です。

展示室は企画展示室常設展示室に分かれていましたが、3月の企画展示室は、期間を区切って「市民ギャラリー」という地元市民による企画展が3つ行われるスケジュールになっていました。

 

しかしこの日は17時半に吉祥寺に到着し一旦食事をとってから美術館へ入ったため(到着は18時半過ぎ)、企画展示室は既に閉室しており(展示によりスケジュールは異なる)常設展示室しか開いていませんでした。

常設展を見る旨を伝えて100円を支払うと、そのまま連絡先の記載用紙を渡され、展示室受付前の記入ブースで連絡先の記入を済ませて、展示受付の人にチケットと一緒に渡すという流れでした。

小規模な公立美術館であるとはいえ、企画展は300円、常設展は100円という安さは破格ですよね。

 

しかも開館は19時半までで、18時終業だとしても充分に間に合う時間まで開いているのが非常に嬉しい美術館です。

残念ながら見ることができなかった企画展示室を横目に(一応外からでも眺められる)早速常設展示室にお邪魔してみましょう。

 

展示室には3人の版画家の展示が 椅子もある静かな空間でのんびりと展示を楽しめる

常設展示室は「浜口陽三記念室」「萩原英雄記念室」に分かれていますが、まずは目の前に見える「浜口陽三記念室」へ足を踏み入れてみましょう。

内部の撮影は禁止でしたので中の模様は文章でしか伝えられませんが、入り口には偉人のような重厚な雰囲気を纏った眼鏡姿の老人のレリーフがあり、この人物が浜口陽三なのでしょう。

 

浜口陽三は明治時代にヤマサ醤油株式会社の創業家に、10代目浜口儀兵衛の三男として和歌山で生まれ、東京美術学校彫刻科塑造部に進むも中退し渡仏、戦時下など数回日本に帰国することもありましたが、基本的にはパリを主な拠点として制作を続けた版画家です。

同じ版画家の南佳子と結婚し、1998年には吉祥寺の代表的なランドマークである東急百貨店吉祥寺店で「浜口陽三・南佳子二人展」を行っており、1994年にも武蔵野市民文化会館アルテで「濱口陽三展」を行うなど、武蔵野市とも縁が深いアーティストとしても知られています。

浜口陽三の世界的功績は、写真技術の発展と共にすたれていた「メゾチント」と呼ばれる銅版画の技術を復興・発展させたことです。

メゾチントとは、簡単に言うと銅版に打ち付けた細かい点の濃淡で黒の濃淡を表現する技法のことで、浜口陽三はこの技法を復興させただけでなく、黒以外の様々な色を織り交ぜた「カラー・メゾチント」という新たな技法に発展させました。

 

展示室には浜口陽三が発展させた銅版画技法を道具の展示と共に解説しながら、浜口独特の様々な版画作品が陳列されており、浜口陽三の残した功績を知ることができるよう工夫されています。

さくらんぼやくるみ、ポプラといった植物を主なモチーフとして、何回も刷り重ねて絶妙な色の濃淡を表現する浜口陽三の繊細で静かな作品は、静謐な美術館という場所でゆっくりと見て楽しむのにぴったりです。

シルクスクリーンで幾何学模様を描く谷充央氏の作品も展示されていましたが、無機質さの色濃い谷充央の作品と、静かながらも有機的な柔らかさのある浜口陽三の作品は絶妙なバランスで溶けあうようにそこにありました。

こうした静けさに満ちた「浜口陽三記念室」の展示に対して(結果的にこの日の展示室は貸し切りでした)、非常に動的なダイナミクスを感じたのが「萩原英雄記念室」でした。

入り口の萩原英雄のレリーフも浜口とは対照的に独特な手書き風の字体となっているし、展示されている作品も、「下絵の原画を作らずに別々の模様を彫って刷り重ねていく」という非常に衝動的な作風をそのままに表現したかのようなカラフルな抽象画で、動的な「生」を感じるような芸術を楽しめます。

 

萩原英雄は銅版画で知られる浜口に対して、木版画リトグラフという技法で知られる版画家で、特に代表的な木版画の多くを、この吉祥寺美術館に寄贈しています。

そうした数々の木版画を作ってきた萩原英雄が使っていた筆や版画道具、絵の具なども展示されており、作品の中に確かに萩原英雄という人物がいたのだというリアリティが強調されていました。

静的なものを静的に空気に溶けるように浮かび上がらせるのが浜口なら、自身の創作欲や生きる力のようなものをその場にたたきつけるように表現するのが萩原で、吉祥寺美術館の常設展示室では、そんな対照的な2人の表現を、100円とは思えないほどじっくりと充分に堪能することができました。

  • 施設名:武蔵野市立吉祥寺美術館
  • 住所:〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目8-16 コピス吉祥寺A館7階
  • 営業時間:展示室 10:00~19:30(企画展は時間が異なるので注意)/ 音楽室 9:00~21:00

 

「気が向いた時にふらっと芸術鑑賞」が叶うアクセス抜群の「吉祥寺美術館」にふらっと寄ってみよう!

以上、吉祥寺の中心地に位置しながらもまだまだ広くは知られていないかもしれない「吉祥寺美術館」に実際に行ってみたレポートを書いてみました。

結局閉館間際までいたのですが、閉館が近づくと各所の片づけと同時に消毒も徹底しており、公立の文化施設ということもあってコロナ対策もばっちりである様子が確認できました。

コインロッカートイレも完備ですし、入り口右手にあるミュージアムショップには過去の展示アーティストの図録・ポストカードも含めた様々なグッズが販売されており、公立の美術館にしては設備も充実しており居心地がいい印象でした。

吉祥寺の中心にあってアクセスもいいですし、平日の仕事終わりでもこのように十分に楽しめるので、是非一度吉祥寺美術館へ「ふらっと」寄ってみてはいかがでしょうか。

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