現代アートでゆるくつながる
「オーガニック」というと、地球に優しく体に安全な野菜なんかを思い浮かべる人が大半じゃないだろうか。
文化的で個性派ぞろいの駅が並ぶ中央線沿線。
庶民的でゆるい空気が漂う新宿寄りの駅たちと比べて、やはり吉祥寺は別格だ。
鼻を垂らしたままでは歩けない品の良さがある。
自分などは少し気遅れしてしまうけれど、 「オーガニック」なアートスペース「Art Center Ongoing」には気負わず行ける。
サンロード商店街を抜けてさらに北に進むとそのスペースはある。
ギャラリー、ライブラリー、カフェを併設した、言っちゃ悪いが少し小さい、でも現代アート界隈ではよく知られたインディペンデントな施設。
Ongoingの代表・小川希さんはおそらく、アーティストやアートファン、批評家などが気軽に集えるこの空間の運営について、共同体のあり方にこだわり、築いたコミュニティを最も大切にしている。
そして集まった人たちの力を借りてこそ、自立した活動が継続できると考えているはずだ。
ここでいう「オーガニック」とは、「有機的な」という意味じゃあない。
小川さん曰く、「オーガニック」には「適度なあんばい」というニュアンスがあり、ゆるく心地よいつながりで形成された共同体のことを指す。
東南アジアでは、アーティストが共同で制作活動を行うアート・コレクティブが活発で、その界隈ではよく聞く言葉なんだそうだ。
そんな小川さんがチーフディレクターを務める、「TERATOTERA(テラトテラ)」というアートプロジェクトが毎年開催されている。
1年を通じてワークショップやライブ、野外イベントなどを高円寺〜国分寺間エリアで企画し、トリには複数のアーティストを招致する「テラトテラ祭り」を行う。
私がこのイベントの運営を手伝うボランティア「テラッコ」の一員になり3年近く経った。
ただ正直、積極的に関わることはできていない。
できることなら飲み会にだけ参加して、お酒を飲んだりメンバーとしゃべっていたい。
貧乏暇なし。
ボランティアは贅沢品なのだ。
TERATOTERAに関わるボランティアメンバーの肩書きは、プログラマーやエンジニア、元新聞記者、整体師、学生などさまざま。
良識と教養と学歴を持たない鼻垂れの私など肩身が狭い思いをしそうなものだが、「オーガニック」な共同体ではヒエラルキーがないから居心地がいい。
打ち上げ会場は決まって、よく行く居酒屋かOngoingだ。
あの展示が良かったとか、あのアートプロジェクトを手伝ったらどんな感じだったとか、小難しい話は抜きにして、楽しく自由に飲む。
忘年会では料理ができるテラッコが腕をふるい、ブリを一尾さばいてブリのフルコース。
最高じゃないですか。
そして誰?
ブリ大根の鍋にブリの尾っぽを突っ込んだのは。
こんな懐の深い集まりがいつまでも続けばいいのにと思うけれど、TERATOTERAは今年で最後だ。
何年もいるのに、もっとコミットしておけば良かったなんて思うのは、なぜか終わりが見えてからだ。
Art Center Ongoing アートセンター・オンゴーイング
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-7
Tel:0422-26-8454
営業時間:12:00~23:00(ギャラリーは21:00まで)
定休日:月、火曜日