牛乳キャップを追い求め
役者である私をそうさせたのは、紛れもなく、牛乳ビンの蓋である。
小学生の私は、牛乳キャップが欲しくてたまらなかった。
同級生が、ポケモンカードだのキラキラのシールだのを、必死になって集めている時、私は牛乳キャップを必死になって集めている子どもだった。
しかし買って貰えば手に入る他のアイテム達と、牛乳キャップは違う。
1日1本しか飲めない牛乳のキャップを集めることには、限界があるのだ。
もちろん闇取引は行った。 牛乳キャップと給食のおかずを交換してもらうのだ。 例えば、牛乳キャップと小おかずとか、牛乳キャップとデザートとか、ね。
ところがその闇取引市場には、必ずライバルが存在する。 奴らの中には、平気で焼きそばや、わかめごはんといったメインのメニューを差し出す強者も。 しかし当時の私は、焼きそばや、わかめごはんまで犠牲にすることができない。 そんなこんなで、私の牛乳キャップ集めは難航していった。
そんな時に出会ったのが、演劇である。
学校の体育館に、どこかの劇団の人たちが、演劇を上演しにきた。 その演劇の感想文を書くと、当時の先生がメッセージをつけて返してくれた。 「ああいうのは、ふつう、チケットを買ってみに行くんだよ。やりたいと思ったなら、あなたも やってみたら?」と。
小学生の私は、ひらめいた。
「そうや!牛乳キャップをチケットにして演劇をやれば、いっぱい牛乳キャップが手に入るや ん!」
そうして、上演した私の処女作は、「2人芝居デビル」である。 (タイトルからして突っ込みどころ満載の劇であるが、今回は文字数も残り少ないので、どんな劇 かは、読者の想像にお任せします…)
牛乳キャップが欲しくてたまらず、闇取引にまで手を染めた小学生の私。 しかし「2人芝居デビル」の創作過程で、あろうことか牛乳キャップへの執着はあっさりとどこか に消えてしまい、いつの間にか演劇に夢中になっていった。
そんな私も、もう24歳。 大阪から上京し、吉祥寺に住みついて4年目になる。 あの頃、私のハートを掴んだ演劇は、今も私のハートを掴み続けている。
そして事あるごとに、行き詰まっては、心の中のデビルが私に囁く。
こんな苦しいこと、いつまで続けるの?
もう辞めちゃえば?
その度に私は、井の頭公園に立ち寄っては、その囁きを浄化させ、 吉祥寺の飲み屋で酒を飲んでは、まあ、いいかと、開き直る。 そして時には、吉祥寺の劇場に足を運び、自分を奮い立たせる。
そうやって、今でも私は、芝居を続けているのだ。