吉祥寺を支えてきたあの人、あの店主 Vol.9

居酒屋やスナックがひしめくヨドバシ裏の雑居ビルの入り口に「どんこや」はある。

岩手県・三陸地方出身の美恵子さんが切り盛りする小料理屋だ。

扉を開けると、ゆるくカーブを描いたカウンターが広がり、両端に座ったお客さん同士でも会話を楽しめる一体感のある造りが特徴。

カウンターには、煮物や魚料理など、大皿に盛られたママの手料理がずらりと並ぶ。

ちなみに店名は、椎茸のことではなく、三陸地方を中心に「どんこ」の愛称で親しまれている魚が由来。

「正式名称は『エゾイソアイナメ』ですが、私の地元では『どんこ』と呼ばれ、ブツ切りにした身と肝や野菜をたっぷり入れた、みそ仕立てのどんこ汁は三陸の郷土料理として有名。漁師をしていた父がよく獲ってきた馴染み深い魚で、母がもし店を開くなら、『どんこや』とつけたいと生前語っていたことをあり、この店名にしました。お店を開いたのは40歳過ぎてから。いくつかの飲食店で働き、子育てがひと段落したタイミングで、自分のお店を開きました。私が中・高校生の頃、育ての母親が小料理屋を営んでいて、すごく愛されていた店だった。その背中を見て育ったこともあって、この店もお客さんがゆっくりくつろげるような心地よい場所にしたかった」

日が暮れて、看板に灯りがともると、仕事帰りの人や地元の商売人、近くの水商売の人らが夜な夜な集まってくる。

その光景は、ひとつの家族が食卓を囲んでいるかのような、いい意味で実家感がある。

その一家を大きな懐でしっかり包み込んでくれるのが美恵子ママだ。

吉祥寺という入れ替わりが激しい街で、20年以上にわたり愛され続けてきたのは、ひとえにママの懐の深さによるところが大きい。

優しさと逞しさを兼ね備えた女性で、こんなにも思いやりと愛情にあふれた人はそうそういない。

商売っ気はないが、タフ(酒も強い)で働き者(これを書くとますます休まなくなりそうだけど、定休日だけでもしっかり休んでほしい…)。

「家族ぐるみの付き合いのお客さんが多いから、今日来るかもしれないと思うと、定休日でも店を開けてしまうのよね(笑)。たしかに商売上手ではないけれど、働き者なのは母親譲り。これからもたくさんの人を温かく迎えたいです」

定番料理や旬の食材を利用した季節料理が楽しめる。

この日はあんこう&わかめ鍋。

居心地の良い空間で、美味しい料理とお酒を堪能。

ひとり客も歓迎。カラオケもあり。

shop data
どんこや
武蔵野市吉祥寺本町1-22-9
☎非公開
[営]18:00~24:00 
[休]月曜

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