最先端の流行から古き良き商店街まで新旧雑多な文化が集まる街・吉祥寺。
綺麗に整備された駅周辺からは「寺町」というイメージは全く感じませんが、街の中心部に4つの寺院が隣り合っていることでも知られており、まとめて「四軒寺」と呼ばれ親しまれています。
そうした四軒寺の中でも、非常に洗練された綺麗な雰囲気と、重厚な歴史を感じさせる荘厳さを今に保っているのが「蓮乗寺」です。
今回は、この「蓮乗寺」に実際に訪れたうえで、寺院までの行き方、混雑具合、見所や楽しみ方、歴史などを解説していきます。
日蓮宗寺院
蓮乗寺は正式名称を「佛種山得乗院蓮乗寺」といい、日蓮宗のお寺です。
開基(お寺を創立した人)は里正十郎左衛門の先祖といわれ、開山は江戸時代初期にあたる寛文2年(1662年)と四軒寺の中では歴史が長い寺院です。
吉祥寺村の開村がその2年後の寛文4年ですから、吉祥寺の歴史と共に受け継がれてきた寺院といえるでしょう。
四軒寺全体に言えることですが、駅から徒歩5分程度で到着するアクセスのいい寺院で、四軒寺の中で唯一吉祥寺通り(公園通り)に面して立派な山門が開いています。
行き方は色々ありますが、代表的なコースとしては、吉祥寺駅中央改札から北側出口を出て、そのまま正面に見えるサンロード商店街をまっすぐ。
「一蘭 吉祥寺店」のすぐ先の角を左折して「ペニーレーン」に入り、コピス吉祥寺・吉祥寺ロフトを右手に吉祥寺通りへ出て右折するのが最も安全でしょう。
とはいえ最終的に吉祥寺通りにぶつかればいいので、サンロード商店街の松屋・エクセルシオールカフェ前を左折して元町通りに入ってもいいですし、サンロード商店街入り口に入らず左折してダイヤ街チェリーナードをまっすぐ西に進んでもいいでしょう。
どこへ行くにも距離が近いので、目的地に応じて自由にアクセス方法が選べるのが吉祥寺の街の魅力ですよね。
「厄除け日蓮」として有名
蓮乗寺は先ほども説明した通り吉祥寺通り沿いに山門を設置していますが、立派な木製の山門は常に閉められている状態のようなので、参拝する際にはこの山門から更に五日市街道方面に進んだところにある簡易的な門から入りましょう。
駅方面から吉祥寺通りを北上していると、歴史深いたたずまいの山門が見えてきますので、まずはその山門脇に書かれた看板の説明書きを読んでみましょう。
そこには武蔵野市教育委員会による「厄除け日蓮の像」の説明書きが記されています。
説明書きによると「本堂正面に安置されている日蓮上人の像は木製の坐像で、高さ一米三十糎(1メートル30センチ)で右手にしゃく、左手に経文の巻物をもっている」と書かれています。
この像は文政年間(約140年前)に、吉祥寺村の名主として知られた松井十郎左衛門の孫娘が母方の菩提寺である蓮乗寺に寄進したものなのだそうです。
孫娘が行儀見習いの為に御殿奉公に出た際に殿様が大病を患い、その時に孫娘が信仰していた日蓮へ祈ったところ殿様の病気が治癒した、という逸話から、「厄除け日蓮」と呼ばれ特別な信仰の対象となっています。
しかし実際の本堂正面には石製にしか見えない立派な、若かりし頃の日蓮上人を象った立像がそびえており、「木製の坐像」は見当たりません。
調べてみると、本来の日蓮上人坐像は、「坐像」だけに概ねあぐらをかき、説明書き通りに右手にしゃく、左手に巻物を持っているものが殆どですので、左手に巻物こそ持っているものの右手に何も持っていない立像はその説明と合いませんし、さすがに立像を「坐像」と呼ぶことはないはずです。
検索してみると、やれ「厄除け日蓮」にあたる日蓮上人坐像は本堂に安置されているとか、やれ本堂左正面に立っているこの日蓮上人像こそ「厄除け日蓮」だとか、ネット上には種々雑多な情報が飛び交っている状況で、どれが正確なのかわかりかねる状態となっています。
これはあくまでも推測ですが、おそらく江戸時代に寄進された本物の木製の坐像は、昔は本堂正面に設置されていたものの、劣化に伴い現在では本堂に安置されていて、本堂左前に立つ、塗り直されているとはいえ比較的新しく見える日蓮上人立像は、その代替物としてのちの時代に建てられたものなのではないでしょうか。
「厄除け日蓮」以外の見どころ
蓮乗寺の本堂は2017年ごろに改築されたようで、それに伴って境内内の石碑や立像なども同時にリニューアルし、寺務所も含めて比較的綺麗な建物が多く、お寺らしく金と黒を基調とした建物や立像は、綺麗な中にも荘厳さを今に残しています。
そんな蓮乗寺の見どころは本堂の「厄除け日蓮」以外にもいろいろあります。
たとえば、本堂の向拝(本堂の屋根が迫り出した部分)の最も手前には改築時に新しく立派な彫刻が彫られました。
鳳凰をかたどった非常に細かい意匠が施され、元々彫られていた龍の彫刻ともうまく馴染んでいますので、本堂にお詣りする際はこの彫刻もじっくり眺めてみるといいでしょう。
そして、山門右手側には「仙路翁墓碣碑(せんろおうぼけっひ)」という松井家の石碑がありますが、「仙路翁」とは吉祥寺村の開村の指導者でもあり名主であった松井十郎左衛門のことです。
松井十郎左衛門のことを慕った筆子(弟子)たちにより、吉祥寺という地を作ったといっても過言ではない偉大な「仙路翁」の功績をたたえるために建てられました。
この石碑は武蔵野市によって有形文化財に指定されています。
御朱印でなく「御首題」
蓮乗寺は先ほども説明した通り、いつも車や歩行者がごった返し騒がしい吉祥寺通り沿いにありますが、すぐそばに混雑する道路があるとは思えないほど閑静な雰囲気を保っています。
基本的には混雑しているところを見たことがありませんので、このご時世でも落ち着いて参拝が可能です。
筆者が平日の夕方に訪れてみたところ、自分以外の参拝者は全くいませんでしたが、2人組の地元の方と思われるご婦人たちが本堂脇で歓談されていたので、地元の市民の憩いの場としても機能しているようにも見えました。
開門時間は明記されていませんでしたが、門は24時間開いているようです。
ただし寺務所の事務時間は月~金曜日の午前9時から午後4時までで、土日祝は基本的には休みとなっています。
それ以外にも急用や法要などで席を外すことや予定が変わったりすることもあるようです。
さて、お寺参拝をしたら御朱印を所望される方も多いでしょうが、ここで大きな注意点があります。
まず、蓮乗寺は日蓮宗のお寺なので、いただけるのは「御朱印」ではなく「御首題」であるということです。
間違っても「御朱印が欲しい」などとは言わないようにしましょう。
また、御朱印と違って、御首題は他宗の御朱印などと一緒にまとめては授与できないということです。
つまり他宗や神道の御朱印を書いてもらっている御朱印帳は使えないので、日蓮宗専用の「御首題帳」を持参するか、書置きのものを受け取るようにしましょう。
貰い方については特段変わったところはなく、先ほど載せた事務時間のあいだに、寺務所の玄関にあるチャイム(カメラ付きインターホン)を鳴らして「御首題をいただきたい」旨伝えて、応対してもらいましょう。
御首題をいただく際に納める必要がある「お布施」の額は「決まっていません」とのこと。
ただあまりに高すぎてもあれでしょうから、一般的な御朱印等の相場である500円~1,000円くらいを納めるといいでしょう。
御首題は特徴的な「髭文字」で書いてもらえますが、住職不在の場合などは書置きのものとなります。
日蓮宗の決まりや由来を知って、蓮乗寺に参拝しよう!
以上のように蓮乗寺は日蓮宗のお寺ですから、日蓮上人を大々的に祀ってあったり、御朱印ではなく「御首題」をいただくなど、独特なルールや決まりが存在します。
日蓮宗のお寺に参拝する際には、できる限り日蓮宗がどういったものなのか、石碑や彫刻の由来などもあらかじめ調べて知っておくと、参拝の時にどのように参ればいいのか迷うことがありません。
ぜひ、この記事を参考に事前知識をつけたうえで、蓮乗寺にお参りしてみてはいかがでしょうか。