おしゃれな雑貨店や洗練された商業施設が集まる、武蔵野市随一の繁華街・吉祥寺。
今では「寺町」というイメージがあまりありませんが、街の中心部には神社や寺院が集中しているエリアがあります。
神社は、言わずと知れた「吉祥寺の氏神様」たる武蔵野八幡宮。
その比較的近くの五日市街道沿い・吉祥寺通り沿い・本町新道沿いには合計4つのお寺がひしめいており、この4軒の寺院が隣接し寄り集まっていることから、吉祥寺ではこれらのお寺を「四軒寺(しけんでら)」と呼び、多くの住民に親しまれています。
そうした四軒寺の中でもちょっと異端さを感じるのが「光専寺」です。
今回は、この「光専寺」に実際に訪れたうえで、寺院までの行き方、見所や楽しみ方、歴史などを解説していきます。
光専寺とは
光専寺は、正式名称を「月秀山井ノ頭院光専寺」といい、知恩院を総本山とする浄土宗のお寺です。
浄土宗の寺院として唯一、阿弥陀如来を本尊としています。
光専寺の歴史
観誉(寛文2年1662年寂)が創建したと言われていますが、寛文2年といえば丁度吉祥寺村の開村とほぼ同時期のことです。
「吉祥寺」の由来は、江戸でも指折りの大火である「明暦の大火」で燃えてしまった「諏訪山吉祥寺」(現在の文京区駒込にある神社で、当時は江戸城内にあった)から焼け出された門前の町人たちが、万治2年(1659年)に現在の吉祥寺の地へ移住を命じられた際に、移転先でも吉祥寺の名に愛着をもっていたことから「吉祥寺村」と名付けて開村した経緯にあります。
吉祥寺村には、開村当初から神社(武蔵野八幡宮)が鎮座し、またその近くに4つの寺社が開山・あるいは移転して、寄り集まるように建立されました。
これを「四軒寺」と呼び、今回の光専寺もそれに含まれることはすでにお伝えした通り。
「四軒寺」の中には、「開村とともに開山されたもの」と、「諏訪山吉祥寺が焼損した際に門前の町人と一緒に吉祥寺村へ移転したもの」とに分かれており、光専寺は後者です。
光専寺は五日市街道に沿っていて、五日市街道側に山門があるので、吉祥寺駅前からは少々距離があります。
光専寺までのアクセス
行き方を簡単に説明しておきましょう。
吉祥寺駅中央改札を出たら北側の出口に向かい、西側の階段を降ります。
北口のバスロータリーに出たら真正面、吉祥寺サンロード商店街をまっすぐ歩き続け、五日市街道まで出ます。(丁度サンロード商店街の突き当りです)
五日市街道にぶつかったら横断歩道を渡らずに、五日市街道沿いの歩道を左折すると、すぐに「光専寺」と書かれた岩が見えてくるはずです。
ここまで、ゆっくり向かって徒歩10分、普通に歩けば6~7分で到着できます。
阿弥陀如来と箪笥地蔵
光専寺は、阿弥陀如来を仏の頂点にいただく浄土宗のお寺なので、本尊は阿弥陀如来であり、本堂には阿弥陀如来像が安置されています。
しかし光専寺にはある種の個性的な特徴があって、本堂には阿弥陀如来像とは別に「箪笥地蔵」という地蔵尊が安置されているそうで、その箪笥地蔵のほうが有名であり、阿弥陀如来像よりも存在感があるというのがちょっと不思議。
「箪笥地蔵」というのは、吉祥寺開村からおよそ30~40年後にあたる享保年間(1700年頃)にこの地で疫病が流行り、当時の住職が子ども達の延命を願い、亡くなった子ども達の供養もかねて、箪笥(タンス)を改造した御厨子に地蔵尊を納め、巡礼をしたという伝承があり、この伝承にちなんで作られた独自の地蔵尊です。
今では本堂左脇陣に当時使用された箪笥を改造した御厨子と一緒に祀られています。
かつては「出開帳(でかいちょう)」といって、箪笥の御厨子に納めた地蔵尊を色々な場所に出かけて行って開帳してまわり、一般庶民や檀家に拝観・結縁の機会を提供していたそうですが、今ではお彼岸の時など法要の時にしか見ることができない「居開帳(いかいちょう)」の状態となっています。
別寺院の住職のブログなどを参照した限りでは、ご本尊の阿弥陀如来像の方が数十倍豪華に祀られていましたが、本堂の扉は基本的には閉まっているので外からはわかりません。
その為に、箪笥地蔵の逸話の方が有名になったのでしょう。
筆者が行った日もそうでしたが、法要が特にない日は本堂の扉は基本的には閉められているようで、代わりに大きく目立つ白字で書かれた「月秀山」の山号額に対して拝むことになりました。
光専寺の地蔵堂
光専寺に実際に行ってみるとわかるのですが、山門側の景色は非常にこざっぱりとしたもので、どこに参っていいものか少し迷うかもしれません。
筆者が訪れた時も、本堂は閉まっていましたし、賽銭箱もありませんでした。
代わりに、本堂左手側に「地蔵堂」があり、そこには小さな銅鑼と、銅鑼を鳴らす用にしては細めの縄がぶら下がっており、ようやくお寺らしく(?)銅鑼を鳴らしての合掌ができました。
地蔵堂は扉が閉じられており、外からは中が見えづらくなっていますが、隙間から覗き込んでみると、なんと中に立っているのは不動明王と大黒様(大黒天)ではないですか。
この2つの像の並びには、大黒天はヒンドゥー教の破壊と創造を司るシヴァ神の化身であるとされ、一説によれば忿怒の神としてのイメージが強い不動明王の起源もまたシヴァ神であるという共通点もありますので、この並び自体は納得がいきます。
しかし、光専寺が浄土宗のお寺だと思い出してよく考えてみると、これはとても不思議です。
大黒天はそもそもが仏教由来の神ではありませんし(ヒンドゥー教から取り入れられ神道と結びついた習合神)、不動明王は大日如来の化身と言われ元々は密教の本尊、特に真言宗で篤く信仰されている神様で、修行を重んじる密教に対し、浄土宗は一切の修行を否定する正反対の信仰だからです。
不動明王は「仏道を阻む魔を退散させ、煩悩や因縁を断ち切る」神であるのに対し、阿弥陀如来は「すべてを受け入れる」神という、全く正反対の教えに即していることも不思議です。
しかし解釈を変えれば不動明王の忿怒(ふんぬ)の形相も「強い心を手助けする」ための真摯な怒りともいえますし(というか大体のお坊さんはそのようにポジティブに解釈しておられます)、そもそも浄土宗の本尊である阿弥陀如来は「すべてを受け入れる」仏様なのですから、このようなカオスな状況もある意味然もありなん、といった感じでしょう。
ただ、なぜこの2つの像が祀られているのに「地蔵堂」というのかは今も謎のままです。
そして、何故か地蔵堂の横に軟式の野球ボールが多数カゴに詰められて転がっていたのも謎めいています。
光専寺の地蔵
光専寺にはとにかく色々と不思議な光景があり、そうしたところに少し異端的な、アンビバレントな価値観の混在を感じるのですが、ある意味その筆頭と言っていいのが、「やたらと地蔵が目立っている」ことです。
「地蔵」は弥勒菩薩がこの世に顕れる56億7千万年後までの無仏世の中で弥勒菩薩の代役を務める、仏の前段階の存在(菩薩)であり、仏そのものではありません。
その地位の低さもあってか「お地蔵さん」と言われ最もわたしたち庶民と距離の近い親しみのある存在と見る向きもありますが、通常の浄土宗寺院であれば、(極端な例かもしれませんが)鎌倉大仏のように、何よりも阿弥陀如来の存在感を表に出すのが普通です。
ですが光専寺の場合には、本堂に本尊と共に祀られている「箪笥地蔵」をはじめ、色々な地蔵の方が明らかに目立って見えます。
先ほど紹介した地蔵堂よりも奥の、墓地へと続く道にも地蔵が並んでいる場所があり、そこには護国地蔵尊・馬頭観音・延命地蔵尊といった地蔵が並んでおり、ある意味ご利益とご加護の見本市のような感じがします。
そして更に先には水子地蔵尊があり、周りには水子を模した小さな子どもの顔をしたかわいらしい地蔵たちが並んでいます。
こうした色々な地蔵がある光景にこそ、浄土宗の懐の広さや「すべてを受け入れる」安らかな思想が見えている、そのように解釈してもいいかもしれません。
御朱印のもらい方
御朱印は寺務所でいただけます。
本堂向かって右に玄関がありますので、チャイムを鳴らして「御朱印をお願いします」と御朱印希望の旨を伝え、御朱印帳を渡してしばし待ち、納経料を指示の通りに支払って丁重に受け取りましょう。
光専寺では、若い修行僧の方が対応してくれる時もあれば、ご住職が直接対応してくれる時もあるようです。
ちなみに光専寺には飼い猫もいるそうで、筆者は残念ながらお会いできませんでしたが、昼間には境内をうろうろしていることもあるそう。
御朱印を待つ間に飼い猫が相手をしてくれることもあるようで、そうしたところも光専寺の面白さのように思えてなりません。
まとめ|光専寺は普通のお寺にはない色々な魅力のある神社だった!
光専寺は、外から見る感じでは寺らしい寺であり、立派な石碑や山門はその由緒正しき歴史を感じさせてくれる荘厳さに満ちていますが、中に入ってみると本堂の扉が閉まっていたり、地蔵が沢山あって目立っていたり、地蔵堂ではひっそりと見えづらい形で不動明王と大黒天を祀っていたり、飼い猫に会えたりと、細かく掘り下げていけば見所はたくさんありました。
仏教的な話にも少し言及しましたが、仏教は日本でも歴史が長く、神仏習合の歴史も相まって、色々な教義が融合したり離れたりしているのは少なからず色々な宗派にみられます。
特に浄土宗は、決して他派を敵視せず戒律で押さえつけるようなことも修行という試練もあまり重視せず、ただ安らかな世界を願うという信仰らしいので、それがまた日本らしいおおらかさにもつながっているのでしょう。
五日市街道沿いにあるとは思えないほど静かな場所でもありますので、立ち寄ってゆっくりお詣りしてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、野球のボールが地蔵堂脇に集められていたのは、隣にバッティングセンターがあるからだろうな、と後で思い至りました。
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