未完成のままの井の頭公園デート・映画館デートがしたいと思ったら|吉祥寺ってこんな街コラム

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未完成のままの井の頭公園デート

もう5年以上前のことだが、当時付き合っていた恋人と井の頭公園へ行った。

彼は事業を始めたばかりで、ほんとうにお金がなく、ふたりのデートといえばもっぱら「散歩」だった。

散歩といっても、私たちの場合は話ながらゆっくり景色を楽しむものではない。ふたり縦列の状態で、それなりの速さでひたすら歩き続けるのだ(例えるなら、映画「ノルウェイの森」でワタナベと直子が歩く速度くらい)。

井の頭公園は池の外周だけで1.5kmある。

脇道に逸れながら進むと多少の緩急があり、結構疲れる。

「散歩」を終え、カフェで休みたいと伝えると、お金がないからという理由で断られた。

それなら私がお茶を奢ると言うと、それは格好がつかないからと、それすらも断られる。

「歩き続ける」以外の選択肢を経たれた様に感じた私は、恋人を置き去りにして帰った。

デートを放棄したのは人生において後にも先にもこのときだけだったので、今でも強烈に印象に残っている。

それから私はひとりで井の頭公園へ行くたびに、未完成のまま終わってしまったデートのことを思い出し、別にカフェに入らずとも缶コーヒーを買ってベンチに座ればよかったのにと、池の前でそれぞれの休日を過ごす恋人たちを見て思うのである。

映画館デートがしたいと思ったら

映画デート

俳優を生業としているわたしにとって、映画館デートは意外とハードルが高い。ハードルと言っても、自分ではなく、相手に求めるハードルが高いのだ。

映画館デートの明暗は、待ち合わせの時点から始まっている。

必ず上映の10分前にはロビーに集合してほしい。

特に、中央の方の席を予約していたら尚更だ。上映時間に遅刻するのはわたしにとってタブー中のタブーだ。

遅刻が本編前の予告編の段階であったとしたら、百歩譲って許さないこともないが、その場合、後方の席を取り直したいところだ。

映画館は席に着いた時点で、映画が終わるまで座り続けなければならない不可抗力が発生する。

その状態で否応なく観させられる予告編というのは、実はかなり重要だ。

自分では選ばない様なジャンルの映画の予告編を見ると、新たな発見を得られることがあり、予告編は「玉手箱」のような存在だと思っている。

デートの帰り道に「そういえば予告編で流れていたあの映画、面白そうだったよね」と、次のデートを約束するきっかけにもなり得る。予告編を侮ってはいけない。

本編が始まったらとにかく静かにして欲しい。絶対に話しかけてこないで。

こそこそ話は意外と周囲に漏れ、ノイズとなってしまうということを忘れてはならない。

隣にデート相手が座っているという緊張感を肴に、スクリーンで繰り広げられる物語に没頭しよう。

さらに、本編映像が終わっても気を抜いてはいけない。映画はエンドロールが終わるまでと相場が決まっている。

エンドロール中に「もう外に出よう」などと言われた日には、私は絶望してしまうだろう。

そして、映画にもよるが、エンドロールにオフショットやミステイクを流すといった、仕掛けがある作品もある。それを見逃してしまうのはほんとうにもったいない。

例えるなら、ライブハウスでバンドの演奏を聴いていて、本編が終了して客電がついたから会場を出たら、その後にスペシャルアンコールがあった!みたいな感じだ。映画はエンドロールが終わるまで味わおう。

エンドロールまで堪能し、映画館を後にしたら、あとはもう楽勝だ。

私が映画館デートで一番の醍醐味だと感じる点は、劇場を後にしてからの時間にある。

同じ映画体験を共有したもの同士、話題は事欠かないだろう。

映画の内容が理解できなかったり、共感できなかったりしても、別にそれはそれでいいのだ。

相手と同じ感想を抱く必要もない。

映像が綺麗だった、音楽が良かった、キャストの芝居がよかった、衣装が可愛かったなど、いろいろな話題の切り口が存在するというのも映画の面白い点だ。

さらに、台湾映画を観たから、このあとは台湾料理を食べに行こうだとか、登場人物が飲んでいたビールと同じメーカーのものをコンビニで買って帰ろうとか、この後のデートの工程を映画と紐づけるのも、また一興である。

どうですか?映画館デート、したくなってきたでしょ?

しかし、残念ながら、この文章を執筆している2020年4月現在、吉祥寺に存在する映画館3館(アップリンク吉祥寺・吉祥寺オデオン・吉祥寺プラザ)をはじめ、東京にあるすべての映画館がコロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛要請を受けて休館中だ。

能動的に人に来てもらうことによって収益が得られる映画館は厳しい状況に直面している。

自粛が解禁されたら、気になる人を誘って映画館デートへ行こう。

客席に座る人々のストーリーを飾る日々を、映画館は今もひっそりと待ちわびていることだろう。

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