「吉祥寺」駅からJRを利用する時に、主要駅に早く向かいたい場合は、オレンジ色ラインの中央線快速に乗り、快速が止まらない駅に行く時は黄色いラインの総武線各駅停車に乗ります。
「吉祥寺」駅では、快速と各停ではホームが違うので、間違って乗ることはまずないと思いますが、御茶ノ水駅などの同じホームに止まる駅の場合でも、車両のライン色が違うので「慌てて飛び乗ったら間違っていた」という心配は無いですね。
路線によって車両の色が違っているおかげで、総武線と山手線の車両が同じホームに発着する新宿駅などでも、間違って乗ってしまうことを回避できます。
でも、そもそも各路線の車両の色はどうやって決まったのでしょうか?中央線はなぜ「オレンジ色」で、総武線はなぜ「黄色」なのか、車両の色が決まった理由を調べてみました。
戦後からしばらく続く「茶色い電車」の時代
太平洋戦争が終戦を迎えた時点の国鉄の車両は、「戦争に勝つまでの間、数年保てば良い」という設計思想のもとにつくられました。
資材を可能な限り極限まで切り詰め、かつ極限まで輸送効率を追求した、いわゆる「戦時設計」の「63系」電車でした。
その後の戦後復興にともなう急激な輸送量増大にともなって、大都市の通勤輸送向けとして登場した「72系」電車が使われるようになりました。
当時は「路線によって車両の色を変える」という発想はまだ無かったので、東海道線の「オレンジ+緑」と横須賀線の「クリーム+青」以外の路線では、すべての路線に同じ「茶色」の電車が走っていました。
期待の新車両「101系」が「オレンジ色」に
1957年(昭和32年)に、近代的メカニズムを搭載た「新性能電車」のはしりとなった「101系」が登場しました。
そして「最新性能電車」であることをアピールするために、従来の「茶色」とは異なる目立つ色を塗装することになりました。
「とにかく明るくて目立つ色にしよう」ということで「オレンジ色(正式な色名は『オレンジバーミリオン』)」のカラーが採用され、その車両が最初に集中投入されたのが中央線だったのです。
その後、山手線と総武線にも「101系」が導入されることになったのですが、どちらも明るく目立つ色ということで同じ「黄色(カナリアイエロー)」が採用されました。
つまり山手線が「黄色」かった時代(1961年~1964年)があったんですね。
オレンジ色が採用された理由については、「開発者の妻が着ていたセーターの色がヒントになった」などの説もあります。
■改良型の「103系」が登場し、路線別のカラー化が
鳴り物入りで導入された「101系」だったのですが、設備面と主電動機の容量不足で今後の通勤路線に対して効果的な増備が行えないことが判明し、1964年(昭和39年)には「101系」の改良型の「103系」が開発され、山手線に投入されることになりました。
その際に、車体色が「黄色」から「グリーン(萌黄色)」に変更されることになりました。
この時から「中央線快速=オレンジ色」「総武線各駅停車=黄色」「山手線=グリーン」という現在の路線別の色分けが決定し、その後の通勤電車は路線別の固有の色(ラインカラー)で彩られることになりました。
ラインカラーの元となった色の由来は様々で、例えば、東京メトロ丸ノ内線の「レッド」は、営団地下鉄の総裁がアメリカを視察した際に入手したタバコ「ベンソン&ヘッジス」の箱の色を採用したといわれており、銀座線の「オレンジ」はドイツ・ベルリンの地下鉄の色が由来と伝えられています。
こんなにカラフルなJR車両
「オールステンレス車両」が採用されるようになった現在では、錆止めのための車体全体への塗装は不要となったため、ラインカラーは車体横の帯の色となっていますが、例えば東京近郊のJR路線だけでも、多彩な車体色の電車が走っています。
路線・系統名 | 車体色 |
---|---|
山手線 | ウグイス(国鉄黄緑6号) |
埼京線 川越線(大宮~川越)・相鉄線直通列車 | グリーン(国鉄緑15号) |
京浜東北線・根岸線 | スカイブルー(国鉄青24号) |
中央線快速 青梅線・五日市線 | オレンジバーミリオン(国鉄朱色1号) |
中央・総武線各駅停車 | カナリアイエロー(国鉄黄1号)、地下鉄東西線直通:ブルー+スカイブルー |
常磐線 成田線(我孫子~成田) | エメラルドグリーン(国鉄青緑1号)+ライトグリーン |
常磐線各駅停車 | エメラルドグリーン(国鉄青緑1号) |
京葉線 | ワインレッド(国鉄赤14号) |
武蔵野線 | オレンジバーミリオン+茶 |
南武線(川崎~立川) | カナリアイエロー+オレンジ+茶色 |
南武線(尻手~浜川崎) | グリーン+イエロー、車体上部にクリーム |
鶴見線 | カナリアイエロー+スカイブルー |
横浜線 | ウグイス(黄緑6号)+グリーン(緑15号) |
相模線 | ブルーグリーン+水色 |
八高線(八王子~川越) 川越線(高麗川~川越) | オレンジバーミリオン+ウグイ |
湘南新宿ライン | グリーン+オレンジ「湘南色」 |
上野東京ライン | グリーン+オレンジ「湘南色」、ブルー(国鉄青20号)、エメラルドグリーン(国鉄青緑1号)+ライトグリーン |
東海道線・伊東線 | グリーン+オレンジ「湘南色」 |
宇都宮線・高崎線 | グリーン+オレンジ「湘南色」 |
横須賀線・総武快速線 | ブルー+クリーム「横須賀色」 |
常磐線 | ブルー(国鉄青20号) |
中央線 | アルパインブルー+リフレッシンググリーン「長野色」 |
内房線 | カナリアイエロー+ブルー |
外房線 | 朱 |
総武線(千葉以東) | 黄 |
成田線(我孫子~成田除く) | 緑 |
東金線 | 朱 |
日光線 | マルーン+ゴールド+白 |
■まとめ
現在では、すべての電車が個別の「ラインカラー」によって色分けをされていることが当たり前になっています。
しかし、ほとんどの車両が「茶色」だけだった時代には、自分がのる列車がどれなのか、ホームか車両の行き先表示で見分けるしかなかったんですね。
そんな時代には、「発車しそうな列車に飛び乗ったら、行き先が違っていた」なんて昔の小説に出てくるようなできごとも現実にありそうです。
また、鉄道模型が好きな方にとっては、全部が「茶色」の車両では、コレクションへの興味も半減するのではないでしょうか。
歴史の中に埋もれていますが、路線別の色分けを最初に発想した方には、ノーベル賞級の賛辞を贈りたいと思います。